日本医療機能評価機構という、舌を噛みそうな素晴らしいネーミングセンスの第三者機関を御存知だろうか?
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厚生労働省所管のこの第三者機関はどうやら、医療に対する日本国民の不安や疑念を後ろ盾と追い風にして、新たに創出された高級官僚と民間保険会社による甘い利権の温床になっている様子である。
海堂尊の
極北クレイマーにおいて、同機関は空疎で実態に伴わない主観的判断の下に医療機関を格付けする組織として華々しく登場するので、該当箇所の一部を引用してみよう。 「1。病院組織の運営と地域における基本的役割。理念、基本方針が確立されているかどうか。理念、基本方針が明文化されているかどうか。イエスとありますが、参考資料はどこですか」
「ああ、次のページに添付されていましたね。理念は『患者さま主体の医療を実現するため、あらゆる努力を惜しまず、地域密着の医療を達成すべく日夜邁進します』。なるほど。悪くない」
「インパクトには欠けますが3点目の『理念または基本方針に患者の立場に立った患者中心医療を重視する文言が含まれている』という項目は達成されていますので、充分です。プラス5点」
「そこの師長さん、この病院の理念と基本方針を暗誦してみて下さい」
「理念と基本方針ですって?なんですか、それ」
「理念や基本方針は付け焼き刃ですね。現場と遊離しているため、かえってマイナス要因です。一種の偽装ですからマイナス20点」
こんな感じでサーベイヤーによる調査が続くのだが、
驚くべきはその調査に掛かる費用のバカ高さ。
さすがは、厚生労働省のおいしい天下り団体。
これも一部引用してみよう。
本体価格は括弧内にあり、それぞれ五万円、二万円プラス消費税。
訪問指導支援も四段階に分かれ
百床未満ならサーベイヤーひとり派遣で一日三十万。
百床から二百床規模で二名一日五十万円。
二百床から四百床で二名から三名一日六十万。
そして四百床以上の大規模病院では
三名で一日から二日、合計七十万円ナリ。
まさに昨今の医療不安を過剰に煽ることによって創出した新たな権益。日本医療界の影の世界に君臨する、合法的国家企業舎弟。
極北クレイマーで海堂尊は日本医療機能評価機構をそう評しているが、そう言いたくなるのも頷ける。(実際の所、極北クレイマーでは日本医療機能評価機構ではなく、日本医療業務機能評価機構と表現しているので、何らかのクレームがついた際にこれはフィクションです、とツッパネる余地を残しているといえる。)
海堂尊は医療従事者を過剰にヒロイックに描写し、厚生労働省を悪の枢軸であるかのごとく断罪する傾向にあるから、その辺りを適切な割引率をもって割り引くと、現実はそれほど悪いものではないのでは?その淡い期待は本書によって儚くも打ち砕かれることになるでしょう。ということで、以下からがやっと本書の紹介。しかも一部分のみ。
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2009年1月より始まった「産科医療保障制度」は医療機能評価機構の担当であり、同制度加入分娩機関では、出産時の医療事故により重度の脳性まひになった子どもに対して、医師に過失がない場合でも3,000万円の補償金が支払われる、という医療分野における無過失補償制度の初ケースとなった。ここまでは、文句なしによい制度を構築したといえる。
しかし、このような社会的セーフティ・ネットを拡充する裏にはキナ臭い裏の事情があった。それがこの制度に民間保険会社が関与するという点。
その概要は、分娩機関から拠出された保険料(1分娩当たり3万円)が運営組織を通じていったん民間保険会社に払い込まれ、保険会社を通じて補償金が産婦に支払われるというもの。そして、驚くのはここから。
年間約100万件の分娩数から3万円の保険料を徴収すると、掛け金総額は約300億円。 一方で、出産時の医療事故による補償対象は年間5から800件で、補償金は3,000万円であるから、補償金総額は150から240億円。更に、この制度を扱う民間保険会社は、東京海上日動、損保ジャパン、日本興亜損保、あいおい損保、ニッセイ同和損保、三井住友海上の6社。
この年間に見込まれる60から150億円の余剰金は何処に行ってしまうのだろうか?まさに、スペンサー・ジョンソンのチーズはどこへ消えた?ならぬ、保険料はどこに消えた?である。このまま突き進めば、自らの収益性を向上させるために給付対象を厳格化し、給付を制限する様子が目に浮かぶ。
コンプライアンスだ、説明責任だ、国民の義務だ、受益者負担だ、三方一両損だ、などとお上は色々なことをおっしゃいますが、本書読了後には医療に関する事象には魔物がそこかしこに沢山巣食っていて、どうすればこの縺れた糸を解きほぐすことができるのか苛まれることでしょう。



